3章 会議の知恵

【コラム①】組織を揺るがす「ステルスな2大リスク」

「企業の不祥事」が世間を騒がせています。しかも、組織を揺るがすような事態に膨れ上がってから、一気に発覚するケースが後を絶ちません。過去に遡って芋づる式に問題が出てきます。

「ここまで大きくなる前に、なぜ手を打たない?」誰もが感じるところでしょう。一体組織に何が起こっているのでしょうか?

効率化や時短意識・企業コンプライアンス・リスクヘッジなど、今では、私たちにもすっかり浸透してきました。会議やコミュニケーションの質は、以前より確実に向上しています。ところが、「建て前」ベースの議論で良しとする「暗黙の了解」が、組織に根付いているならば、事態は深刻です。組織に増えるステルスな問題に迫ります。

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1、【リスク1】予定調和の波

(1)建て前ベースで進む会議

様々なハラスメントが叫ばれるようになった現在、さすがに会議中の「つるし上げ」や、罵声を浴びせる人も少なくなってきました。効果が少ないばかりか、社員の隠蔽体質を助長するなど、デメリットが大きいことが認識されてきた成果でしょう。

一方で、たった一言が大きなリスクになる時代。ビジネスパーソンは、次々に増える「コンプライアンスマニュアル」をいつもアップデートし、常に脇を締めて行動する必要があります。

昔の習慣で「良かれ」と思ってしたことも、不用意な発言で信頼を失えば、回復には膨大な時間を要し、「働き方改革」や「時短」と逆行します。

ジェームス
ジェームス
法令順守!
社会規範遵守!
リー課長
リー課長
ビジネスパーソンは
企業市民でもあるからね。

しかし、過度な「行儀の良さ」は、効率化の波と同様、組織に当たり障りなく演じる「役者」を増やすことにつながります。

チームのため、会社のための熱い「チャレンジングな姿勢」は、余計な仕事を増やす(=メンバーの残業時間を増やす)ことになりかねず、若いエネルギーはますます委縮するでしょう。

「建て前」ベースで議論が進み、参加者の「本音」はますます地下に潜ってしまいます。

【①若手スタッフ】
チャレンジングな姿勢は「時短」と逆行。周囲に疎まれ、挑戦意欲は削がれる


【②ベテランスタッフ】
現場の「実態」をあえて語ることもなく、「本音」と「建前」は一層乖離する

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(2)創造性を生み出す「余地」は?

「ヒト」は元来、表と裏の顔を持ち一筋縄ではいかない複雑な存在です。会議にも「遊び」や「無駄ばなし」など、一見非効率でも、若干の「余地」が残されている方が心地良いと感じる生き物かもしれません。そしてこの「余地」は、ヒトの「創造性」を生み出す「余地」でもあります。

ジェームス
ジェームス
まじめな会議が続いたら
飽きちゃうからな…
ロバート
ロバート
一見「無駄」に見える話が
すごいアイディアを生んだりする
これぞ「ヒト」の真骨頂!
ジェームス
ジェームス
AIにはマネの出来ない技かもね!
リー課長
リー課長
「AI」が「飽きない」のも能力
「ヒト」が「飽きる」のも能力だ!


とはいえ、「余地」から「創造力」を生み出すには、ヒトに本来備わっている、高次の能力を引き出す「しかけ」が必要です。

リーダーの大きな「度量」や、素が出せるフランクな「場」など、イノベーションを生む「土壌」が組織には求められます。

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逆に「組織を揺るがす大問題」が立て続けに発覚する昨今、企業は神経質なリスク管理を余儀なくされています。何か事が起こる度、またしても「余地」「創造」とは逆方向にメーターが振れるのです。

【組織に「役者」が増える要因】
① 徹底した「リスクヘッジ」と「責任追及」が横行

② 主旨に沿わない発言や、無駄な議論は排除
③ みんなが一斉に「効率化」や「時短」に向かう
④ 不用意な発言にはリスクが潜む

これだけネタが揃えば、「役者」たちもうわべの議論を淡々と進め、「予定調和な結論」を導き、目先の課題解決に終始するでしょう。

「創造性」を生み出す余地どころが、かつての「ガス抜き」や「フラストレーション解消」機能さえ、今や全く期待できません。

【予定調和な会議】
食えない「役者」が一堂に会し、適度に活発な議論がなされ、みんなが納得して物事が決まっていくプロセスを、参加者が「演じる」時間

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(3)建て前ベースで良しとする「暗黙の了解」

効率化や時短、リスクヘッジにコンプライアンスまで。今では、すっかり私たちに浸透してきました。会議に対する参加者の意識は、以前より確実に向上しています。

参加者が、みな同じ「ゴール」を目指し、効率的で活発に議事が進行する。会議の理想形とも言えます。

しかし、もしこれが、参加者の「演技の質」が上がったのが原因だとすると、事態は深刻です。

なぜなら、「建て前」ベースの議論で「良し」とする「暗黙の了解」が、その組織に根付いている事を意味するからです。

深刻なのは、組織が本来解決すべき「真の問題」に気づかぬまま、時間だけが経過してしまうこと。それでも、表面的には「短期的な課題」が淡々と解決されるため、この兆候を察知し抜本的な「外科手術」をするのは難しいでしょう。

結局、根っこの病巣は残ったまま。「真の問題」は確実に進行していきます。組織を揺るがす事態に膨れ上がってから、一気に問題が発覚する事例が増えているのはこのためです。

じぇーむす
じぇーむす
不祥事が一旦公表されると
芋づる式に色んな問題が
出てくることって、
最近多いかも

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2、【リスク2】効率化と時短の波

(1)担当者が抱える不安と不満

現場の悩みや実態とのギャップは、「不安」や「不満」となって担当者に蓄積しています。これらをきちんと解消しておくことも、次の成果に繋げるために必要なプロセスです。

会議には、こうした不満エネルギーを解消する機能もありますが、一見遠回りで、余談や脱線も多いため、限られた時間内では消化しきれません。

会議中に出来なかった「ガス抜き」や「フラストレーションの解消」は、いわゆる「飲み会」等のインフォーマルな場が受け皿となり、その役割を担ってきました。

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(2)ガス抜きできない不満は地下に潜る

「働き方改革」が定着してきた現在。効率化と時短意識が浸透し、ゴールに向けた無駄のない議論が進行している中、「本音トーク」を差し込める余地は少なくなってきました。

また「飲み会」も昭和的と敬遠され、参加率は高くありません。そもそもネット会議が推奨されるため、インフォーマルに集まる場も少なくなっています。つまり、職場の人間関係の中で「本音」を聞いたり「もやもや」を解消する「受け皿」が減ってしまったのです。

じぇーむす
じぇーむす
結局、飲み会って
ストレス解消できる人が賛成派
ストレスたまる人が反対派では?
りー課長
りー課長
確かに
潤滑油にもリスクにもなるぞ!

では、蓄積したフラストレーションはどこへ向かうのでしょう。

職場内で解消出来なかった不満は、ネガティブなエネルギーとなり、勢い「地下」に潜ることになります。

未消化なエネルギーは、時に辛辣な言葉となってSNSやネット空間にあふれ、第三者によって増幅されます。ネット上に「はけ口」を見い出し、そこで生まれた「連帯感」は、会社に当たり障りなく演じる役者を、またも増やしてしまいます。

普段から不満など口にしない優秀な若手スタッフが、ある日突然やめてしまうのは、組織にとって大きなリスクです。

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