序章 知恵の扉

無理と無駄を賢く回避「がんばる前の3ステップ」

新社会人のキャリアスタート。あるいは、新規プロジェクトのキックオフ!
おもしろい事に、リスクやクレームには神経質な人も、仕事を始める場面では「案ずるより…」と、深く考えずそのままスタートする事が多いのが現状です。

物事を始めるには、あらかじめ知恵を使う「準備工程」が必要です。何事も最初が肝心。がむしゃらに全方位で戦う前に、無理と無駄を賢く回避する「がんばる前の3つのステップ」をご紹介します。

【STEP1:発射台を高くする(1次元)】



【STEP2:発射角を引き上げる(2次元)】



【STEP3:発射する方角を選ぶ(3次元)】

【STEP1】発射台を高くする/知識工程

はじめは、発射台を高くする「知識」工程です。

どんな仕事に取り掛かるにせよ、高い位置からのスタートは、競合に対する強力なアドバンテージを意味します。

発射台の高さ(アドバンテージ)とは、豊富で質の高い「知識量」を指しています。

ここでいう「知識」とは、膨大な「情報」から必要なものを選択し、意味のまとまりごとに体系化したもの。「情報」を暗記することではありません。

従って、貴重な時間を費やす前に、本当に必要か見極めが必要です。

日常的に過大な情報にさらされる時代。無意識のうちに「雑多な情報」に脳が占拠されては、本来必要な「知識」を蓄える余地も、見極める「判断軸」も無くなってしまいます。

情報を疑い、取捨選択し、自分の「判断軸」でジャッジしていくことが、今後ますます重要になるでしょう。

【STEP1の具体事例】資格取得に向けた「知識工程」

不動産開発や利活用事業を進める上で「宅建」資格は不可欠です。その分、出題範囲は広く、各種法令から税制まで、幅広い知識が4科目にわたって要求されます。資格取得と仕事を両立は、楽ではありません。

【宅地建物取引士の試験科目】
①宅建業法       ②法令上の制限
③権利関係       ④税金その他

中でも、受験生を悩ませるのが「権利関係」。民法や借地借家法など難問が多いのに加え、過去の判例を読み解く読解力も要求されます。

ここで、目的に沿って「取捨選択」する能力が試されます。

民法をきちんと押さえようと「原文」を読み出す人もいますが、限られた時間で網羅するには奥が深く、膨大な時間をとられます。また「相続」「時効」「相殺」といった気になるテーマも多いため、興味本位でハマってしまうと、本来習得すべき知識まで手が回りません。

資格学校で「民法」にハマらぬよう注意するのは、「取捨選択できる力」を身につけるよう、指導しているのです。

【STEP2】発射角度を引き上げる/知恵工程

次は、発射角度を引き上げる工程です。

発射台を高くしても、そのまま水平に飛び出しては、せっかくの知識も台無し。知恵を絞って上向きにスタートできるか、ビジネスパーソンにとって大きな分岐点です。

下の図は、2つのパラメータ(高さ+発射角)により、到達点(仕事の成果、将来のキャリアステージ)に大きな「差」が出ることを表わしています。

絵で見れば当たり前でも、この点に注目する人は多くありません。特に、2つ目のパラメータ(発射角)では、その傾向が顕著です。

台を高くする(知識を習得する)工程は、努力と成果が直線状(1次元)で紐づけできるため、「わかりやすく」「セルフモチベート」しやすいパラメータです。資格の取得などは、わかりやすい成果ですね。

これに対し2つ目は、自分で思考する知恵工程のため、目に見えず意識もされません。

「到達点」をセットしたら、最短ルートを目指せる「発射角」を探るのは当たり前。にもかかわらず、成り行きや過去の慣習に任せ、この工程を省略する人が大半です。

これまでのやり方に無駄はないか?遠回りしていないか?

疑問を持つことなく飛び出し、結果的に「場当たり的」な事後対応に巻き込まれてしまう。あるいは、これまで理想とされてきたキャリアパスを、何のためらいもなく目指して突き進む。

従来の価値基準を踏襲しても、今まで高かった「発射角」が、いつの間にか下がっているかもしれません。「今何をなすべきか」よく言われるこの掛け声でさえ、組織内で用意された既存のメソッドの中から「選ぶ」だけの作業になっているなら危険です。

これからの時代、事を始める前に「今何をなすべきか」よりも「今何を考えるべきか」が、圧倒的に大切です。

・課題の本質は何か
・関係者の本音はどこか
・そもそもこれは課題か
・ミッションの見直しは必要か
・ <中略>
・必要な人財は揃っているか
・押さえるべきキーマンは誰か
・リスクの再評価は必要か
・蓄えた知識をどう使っていくか(メタ知識)

今この時点で「考えるべきこと」にフォーカスして知恵を絞り、自らの「判断軸」を確立させましょう。

Society5.0 時代の新たな「意味」と「価値」は、ヒトに備わる「知恵」を存分に使った者が生み出すのです。

【パターン①:発射台が低い】

スタート地点が低い(知識が乏しい)のは大きなハンディ。角度を上げるだけでは限界が。

【パターン②:発射台が高い】
スタート地点が高い(十分な知識がある)ほど、大きなアドバンテージ。豊富な知識に加え、知恵を使って発射角を上げれば、将来高いステージでの活躍が期待できる。

【パターン③:発射台が高い+発射角が低い】
知識の高さが活かせていない。そればかりか、高学歴や高い知識が、かえってキャリアップの障害になることも。せっかくの高価なハサミも、使いようで「武器」にも「お荷物」にも。

高いステージを目指すには、発射台を高くする「知識工程」と、発射角を引き上げる「知恵工程」が必要です。

【STEP2の具体事例】宅建取得後の「知恵工程」

宅建業務は、知識と実業務のギャップが大きい職種の一つです。

試験用の「知識」を網羅しても、実業務では「手付や違約金をめぐるトラブル」「住宅ローンをめぐるトラブル」「不動産瑕疵をめぐるトラブル」「プロジェクトの中断トラブル」など、トラブルシューティングに待ったなしの対応を迫られます。

自然体で業務に飛び込めば、トラブル発生の都度、発生した順番に「後追い」で事後対応する事になるでしょう。これでは時間ばかり掛かる上、とり得る選択肢がどんどん限定される「負のスパイラル」に巻き込まれてしまいます。

リスクヘッジに重点をおくのか、過去事例や暗黙知を「見える化」して備えるのか、あるいは思い切って顧問弁護士を変えてしまうのか。

場当たり的な対応に追われる前に、立ち止まって冷静に「知恵」を使えるかが大きな分かれ道です。

【STEP3】発射する方角を決める

①発射台を高くして(知識工程/1次元)
②発射角を引き上げ(知恵工程/2次元)たあと、
もう一つ大切な選択が待っています。それが
③発射する「方角」を決める工程です。

ここまで「知識」と「知恵」を使い、準備を整えてきましたが

・自分の「強み」にマッチしたフォールドか?
・この先の環境変化に対応できるフィールドか?

の2つを加え、活躍のフィールド(方角)を検証する必要があります。

この工程が3番目なのは、ある程度「やってみないと分からない」から。

新社会人としてキャリアをスタートする時点では、判断材料を持ち合わせていません。自分の「強み」を思い込みでFIXさせると、機会損失になりかねないのです。

ある程度経験を重ねることで、自分は「マネージャー」向きなのか、専門分野で「プロフェッショナル」を目指すのか、「トップセールスマン」が性に合うのか「強み」が見えてきます。

逆に、「強み」を把握しておきながら、違う分野にかじりつくのも機会損失といえるでしょう。タイガーウッズにゴルフをさせず、バスケットボールに固執させるのと同じです。

また、AIとの共存が進む「Society 5.0」の時代に、パラダイムシフトを無視し、AIとバッティングするフィールドを選んだら、この先10年もたないでしょう。


「強み」がわかったら、進むべき「方角」を見直す覚悟も必要です。

選択した方角が自分の「強み」とマッチし、更にAIの代替が効かないジャンルであれば、費やしたエネルギーは効果的に活かされます。何よりもモチベーションと発揮される能力が圧倒的に高まるでしょう。

個々の「強み」が活かせる柔軟な「仕組み」が出来れば、個人として大きな成果を得られるだけでなく、「労働力の全体最適化」というマクロな成果にもつながります。

「ヒト」本来の知恵を発揮すれば、「ヒト」の尊厳が保てる社会システムが今後も続くことになります。

【「最相組」は3年で頭角をあらわす】

入社1年目の状態は、みな似たり寄ったり。ただし、がむしゃらに突き進む人と、「がんばり方」を心得て「知恵を使う習慣」を身につけた人では、3年目に明確な違いが出ます。最相組も、遅くともこの時期までには頭角を現わしています。