【序章①「知恵」を身に着けた者が勝つ世界】 からの続きです。
最早組とは、同期入社の中で最も昇格が早い人またはそのグループのこと。3年で結果を出すために、彼らはどんな「知恵」を仕事で使っているのか。そもそも「知識」と「知恵」の違いとは?invisibleな「知恵」について考えます。
目次
1、ビジネスに効く「コミュニケーションの知恵」
1)きっかけは100回を超えた研修
仕事で輝く人たちは、どんな「知恵」を使っているのか。
こう考えたのは、研修を100回以上にわたり企画・開催してきたことがきっかけです。
理系枠入社だった私は、主にコンサルタントや不動産開発のプロジェクトに関わってきました。ところが長年の転勤生活で、およそ理系とは対照的な仕事(企画畑や人事・採用等)にも携わることができたのです。
特に、数多くの研修を企画し、若手からベテランまで全国から集まった多くの方々と出会えたことはとても幸運でした。仕事でありながら素晴らしい経験をさせてもらったと、今でも感謝しています。
私たちに求められるスキル群の中で、特にビジネスに効くのは「コミュニケーションの知恵」である、と強く意識するようになったのは、この時の強烈な経験がきっかけです。
「伝える」技術は一様ではありません。その国、地域、企業のカルチャーを肌で感じ、相手にとって「意味のある」アウトプットにチューニングしていく「器用さ」が必要です。
文系脳フル稼働だな
<P1>
2)そこじゃない「違和感」
ところが、当時の研修テキストは、どれも画一的な知識(形式知)が中心で、「知恵」の領域には踏み込んですらいませんでした。
「形式知」とは、言葉や数式で表現でき、容易に伝達できる知識です。教科書・仕様書の類がこれに該当します。私たちビジネスパーソンにとっては、基本動作から専門知識まで、大切な知識群です。
一方で、これだけでは本当の意味で人やビジネスは動きません。「知識ベース」で勝負しても人の共感は得られ難く、現場とのギャップがなかなか埋まらないからです。
「そこも大事だけど、実際はそれだけじゃないんだよな…」受講中に感じるこの「もどかしさ」は、誰もが経験するのに、誰も声に出しません。
<P2>
3)本当のことは誰も教えてくれない
「知恵」は目に見えません。だから難しい。invisibleな「知恵」は、ただでさえテーマとして扱いづらいのに加え、昔から「語らないのが美徳」とする風潮も存在します。
誰も教えてくれない…
傷つく人がいるかもしれないだろ!
私たちに深く根差したこの文化は、なにも相手に意地悪するためではありません。他人同士が気持ちよく暮らすため、余計なハレーションを起こさないための知恵であり、哲学なのです。
特にビジネスの世界では、本当のことは、簡単には表舞台に登場しません。
<P3>
2、花の「最早組」が駆使する「知恵」の正体
1)ビジネスの「知識」と「知恵」
ここで「最早組※」と言われる優秀な若手を例に「知恵(wisdom)」について考えます。彼らも「知識(knowledge)」を武器として使いますが、実際には、無意識に使っている「知恵」が、高い評価や信頼につながっています。
「知識」と「知恵」の具体例はこちら【序章「知識と知恵。結局どう違う?」】
ビジネスの現場は応用問題だらけ。画一的な「知識群」だけでは足りず、多様なモノの見方が求められます。
このため、彼らが広い視野と高い志で「本質」を見抜き、相手にとって「意味のある」アウトプットが出来た時、その思いは相手に響き、彼らの評価を決定的に高めるのです。
同期入社で同じような「知識」がありながら、最早でキャリアアップする人と、そうでない人に分かれる原因には、普段から「知識ベース」で思考するか、「知恵ベース」で思考するかの違いが隠されています。
<P4>
「知識」とは「情報を、意味のまとまりごとに体系化したもの」
特に、私たちが普段「知識」として認識しているのは「形式知※」
「知恵」とは「本質を見抜き、知識から意味を創り出す能力」
ビジネスにおける「知恵」は、①背景や現象から本質(真理)を見抜き、②知識や情報を材料として、③「意味」を創造する能力のこと
「知恵」はinvisibleな領域。神経科学的に明確な定義ができないが、「AIにまだできない領域」と引き算で考えるとわかりやすい
これからのビジネスパーソンにとって、AIに対する決定打となる能力
見抜き、ビジネスや相手にとって
「意味のある」アウトプットをする!
※最早組:同期入社の中で最も昇格が早い人、またはそのグループのこと
※形式知:言葉や数などで表現でき、容易に伝達できる知識。
※暗黙知:言葉や数などで表現することが難しく、人に伝え難い知識。理屈で説明しずらく仕様化できない。
※メタ知識:知識のための知識、知識を運用し使いこなすための知識。メタ(meta)は上位を表わす
「知恵」と同じくinvisibleな「暗黙知」や「メタ知識」は、知識とネーミングされていますが、ビジネスではむしろ「知恵」の領域に近いと考えています。
<P5>
2)ビジネスで扱いづらい「知恵」
なぜ、表に登場しないのでしょう。それは「知恵」のもつ3つの側面に関係します。
1、暗黙知と同様「知恵」は、そもそも言葉で表現しずらい。
本人も「どうやっているか」上手く説明できない。
2「知恵」は自分の付加価値。キャリアアップの大きなアドバンテージになっている。「見える化」してシェアすることに、インセンティブが働かない
3「知恵」は、時にしたたかで、キレイごとばかりではない。清濁併せ呑む中で生また知恵を、わざわざ文字には起こさない。
言わない方が、かえって価値が高まることもある
「知恵」のもつ魅力や無限の可能性は「概念」として人々の中に成立しています。具現化することで「知恵」の概念をかえって矮小化させ、価値を半減させてしまうかもしれません。ビジネスで「知恵」をテーマにしづらい理由がここにあります。
<P6>
3、私たちの武器を「知識」から「知恵」に
AIとの共存が当たり前になるSociety 5.0 の社会。ワークスタイルも、選択の幅をますます広げていきます。
固有のスキルを有した個人が、プロジェクトごとに「小集団を形成」するワークスタイルは、「大組織に所属」する事と同じくらい主流になるでしょう。
利害が複雑に絡む大組織で、必死に立ち回ってきた「段取り力」は、個人プレーヤーの増加とともに自然と必要性が薄れていくかもしれません。組織で培った「経験知」は、不良資産化を指摘する向きもあります。
しかし「ヒトとヒトが関わりながら」働くビジネスの根幹が、「伝える知恵」「コミュニケーションの知恵」であることに変わりありません。それは、どんなワークスタイルであろうと陳腐化しないのです。
<P7>
AIとの住み分けが急務となっている今、ビジネスパーソンの主戦場は、今後、次々にスライドしていくでしょう。ならば、私たちの武器も「知識」から「知恵」へ早く持ちかえる必要があるのです。
これまでははっきり認識されることもなく、人によっては舞台裏に仕舞い込んでいた
invisibleな「知恵」は、ヒト本来の武器なのです。
4、仕事のコツは「知識」と「知恵」
次章から、仕事のコツを「知識」と「知恵」に分けてまとめていきます。
【1章 報連相の知識、報連相の知恵、2章 プレゼンの知識、プレゼンの知恵】
1)「知識」の章で扱う内容
・コミュニケーションテクニック(報連相・プレゼン・会議など)に関する知識
・仕事内容そのもの(仕上がり品質、話の組立方など)に関する知識
・入社間もない人も、すぐに使える「テクニック」集
2)「知恵」の章で扱う内容
・知識だけでは解決できない、ヒトの思いや本音に響く「知恵」にフォーカス
・内容そのものより、周辺にある高いフェーズの「知恵」を深掘り
・従来暗黙だった領域も「○○の知恵」とわかりやすくネーミングして紹介
・3年で結果を出し、キャリアアップを目指す「知恵」の事例集
<P8>